UEC-NAOJ-ISM アストロセミナー

◆ アストロセミナーとは?

近年観測天文学はビッグデータ時代を迎え、データサイエンスの最先端の成果の助けなくしては、研究を進めることが難しくなってきました。実際、天文研究者とデータ科学者の共同研究も増えてきています。その連携をさらに進め、さらに、特に学生の皆さんにこの学術分野の境界領域に興味を持ってもらうために、電気通信大学・国立天文台・統計数理研の有志で、合同アストロセミナーを企画しました。およそ月1回のペースで、共同研究の事例紹介を中心に話題をとりあげます。また、ときには、データ科学を武器に、自然科学にに留まらず、社会の諸問題の解決に取り組まれている方々も講師にお呼びしたいと考えています。

【 UEC-NAOJ-ISM アストロセミナー世話人 】(順不同)
  庄野 逸  (電通大)
  池田 思朗(統計数理研)
  白崎 正人(統計数理研・国立天文台)
  服部 公平(統計数理研・国立天文台)
  但木 謙一(国立天文台)
  宮崎 聡 (国立天文台)

◆ 開催状況

回次日時講演者/タイトル状況
第1回
2022年5月31日
但木 謙一(国立天文台) /「銀河天文学とビッグデータ」開催済み
第2回2022年6月28日池田 思朗 (統計数理研究所)/「イベント・ホライゾン・テレスコープによるブラックホールシャドウの撮影とデータ科学」開催済み
第3回2022年7月26日
正木 彰伍 (鈴鹿工業高等専門学校)/「天文学で博士を取った人が企業勤めをした一例 」
開催済み
第4回2022年8月18日 塚田 怜央 (Penn State Univ.)/「コンパクト連星系合体からの重力波信号のリアルタイム検出」
開催済み
第5回
2022年9月27日服部公平(国立天文台・統計数理研究所)/位置天文衛星Gaiaとデータ科学開催済み
第6回
2022年10月25日
庄野 逸 (電気通信大学,人工知能先端研究センター)/深層畳み込みニューラルネットワークの原理と画像処理開催済み
第7回
2023年1月31日
酒井 剛 (電気通信大学)/ミリ波〜テラヘルツ波帯電波天文用受信機の開発
開催済み
第8回2023年2月28日
佐々木 明(ヤフー株式会社)/ドイツで天文学のPhDを取った人が会社で開発・研究を経験して気づいたこと開催済み

◆ 第8回セミナー/2月28日(火)開催

【講演者】

佐々木 明(ヤフー株式会社)

【タイトル】

ドイツで天文学のPhDを取った人が会社で開発・研究を経験して気づいたこと

【講演概要】

修士まで日本で天文学を学び、ドイツの博士課程を修了後、ヤフー株式会社に新卒として就職し、いくつかのプロジェクトに関わってきました。この経験を踏まえて、大学の研究室と企業における仕事の進め方の違いや、データサイエンス部署で取り組んでいる実際の課題やそのやりがい、天文学のPhDは就職後役立ったか、などについてお話しできたらと思います。質問も大歓迎です。

◆ 開催概要

  • 開催日時:  2023年2月28日(火)16:15 – 17:45  (電通大5限)
  • 申込方法:申込フォームからお申し込みください
  • 開催形式:Zoomによるオンライン開催(申込後にメールにて、ZoomURLをお伝えします)
  • 対象:大学生以上(本学学生に限りません)
  • 費用:無料

※本公演ではZoomのスクリーンショット撮影や録画等はできませんのであらかじめご了承のうえご参加ください

問い合わせ

電気通信大学人工知能先端研究センター イベント担当
seminar@aix.uec.ac.jp


◆開催済みイベント概要

第7回セミナー(2023年1月31日(火))】
タイトル】ミリ波〜テラヘルツ波帯電波天文用受信機の開発
【講演者】酒井 剛 (電気通信大学)
【講演概要】
現在、電気通信大学では国立天文台などと共同でミリ波〜テラヘルツ波帯の電波天文用受信機の開発を行っている。本講演では、電波望遠鏡および受信機について学部学生向けに解説し、現在行なっている開発の内容を紹介する。また、後半にはアルマ望遠鏡を用いた大質量星形成領域に対する分子輝線観測の結果について紹介し、受信機開発の重要性を説明する予定である。


第6回セミナー(2022年10月25日 (火))】
タイトル】深層畳み込みニューラルネットワークの原理と画像処理
【講演者】庄野 逸 (電気通信大学・人工知能先端研究センター)
【講演概要】
深層畳み込みニューラルネットワーク(Covolution Neural Network: CNN) は画像処理の中核としての立ち位置を確立してから既に10年が立つ.また,近年では天文学を含む,多様な科学技術的な画像処理にも浸透し,その威力を発揮しつつある.本講演では,学生向けとして CNN のメカニズムと画像処理の関連についての解説を行い,今後の展開を議論できればと思う.


第5回セミナー(2022年9月27日 (火))】
タイトル「位置天文衛星Gaiaとデータ科学」
【講演者】 服部 公平(国立天文台・統計数理研究所)
【講演概要】
2013年に打ち上げられた人工衛星Gaia(ガイア)は、人類の住む銀河系の3次元的地図を作成することを目標とし、約10年にわたって全天の星を継続的に観測している。Gaiaは三角測量の原理を用いて星の3次元的位置や速度を高い精度で推定し、今年6月には約15億天体の星の位置・速度情報を全世界に無料公開したが、これは銀河系の星の1%の星の数に対応する。本講演では、Gaiaのデータ解析班が生の観測データからモデルを介してそれぞれの星の位置・速度を推定し、カタログ化した過程を概観する。さらに、いくつかのトピックに絞って、Gaiaのカタログを利用したデータ科学の成果について紹介する。 


第4回セミナー(2022年8月18日 (木) )】
タイトル「天文学で博士を取った人が企業勤めをした一例」
【講演者】 正木 彰伍 (鈴鹿工業高等専門学校)
【講演概要】
こんにちは、鈴鹿高専の正木彰伍と申します。私は大学院で天文学を専攻し、2012年度に博士号を取得しました。新卒で日本電信電話株式会社に入社し、NTTセキュアプラットフォーム研究所でセキュリティ、特に個人情報保護に関する技術の研究開発に従事しました。その後、2018年に鈴鹿高専に助教として異動し現在に至っています。本講演では、私が大学院でどのような研究をしていたか、そのうち就職活動で何をアピールポイントにしていたか、NTTではどのような仕事をしたか、天文研究の何が役に立ったかについてざっくばらんにお話しできればと思っています。質問も歓迎します。  


第3回 セミナー (2022年7月26日(火) )
【タイトル】「コンパクト連星系合体からの重力波信号のリアルタイム検出」
【講演者】 塚田 怜央 (ペンシルバニア州立大学 博士研究員)
【講演概要】
2015年、ブラックホール連星系合体からの重力波が史上初めて観測されて以来、日米欧の重力波研究グループはコンパクト連星系合体を起源とする重力波信号を定常的に検出し、「重力波天文学」という新領域を確立させた。それに加え、重力波と電磁波信号の共同観測によって、ブラックホールや中性子星といったコンパクト天体の基本的性質のみならず、原子核物理や宇宙論に関しても新しい知見を得ることができると期待されている。将来的には2023年3月から日米欧による第4次観測が計画されており、それに向けてデータ解析だけでも数多くの手法が開発・改良されている。それに関連して今回は、コンパクト連星系合体からの重力波信号のリアルタイム検出法に注目し、上記に述べた「マルチメッセンジャー天文学」においてそれが担う役割を議論する。特に近年開発が進む、連星系合体前に信号検出を試みる”early warning”という手法も紹介し、次期観測での見込みなどを述べたい。


【第2回セミナー (2022年6月28日 (火)) 
【タイトル】「イベント・ホライゾン・テレスコープによるブラックホールシャドウの撮影とデータ科学」
【講演者】
池田 思朗 (統計数理研究所)
【概要】
 2019年4月、イベント・ホライゾン・テレスコープ(EHT: Event Horizon Telescope)はM87楕円銀河の中央にある超巨大質量ブラックホールの姿を世界で初めて撮影し、発表した。それから3年が経ち、EHTは2022年5月、我々の住む天の川銀河の中心にある超巨大質量ブラックホール、いて座A*の画像を発表した。EHT collaboration は国際共同プロジェクトであり、現在、世界21ヶ国/地域の80の研究機関か300人を超える研究者が所属している。光学の望遠鏡とは異なり、EHTは、遠く離れた複数の電場望遠鏡ので同時観測したデータを組み合わせて画像を求める超長期線電波干渉計(VLBI : Very Long Baseline Interferometry)であり、画像を得るためには計算機上でさまざまな操作が必要となる。私は統計分野の研究者として7年以上このプロジェクトに関わっており、主に画像化のアルゴリズムに貢献している。本講演では新たな画像化アルゴリズムがどのようなものであるか、そしてなぜ画像を発表するまで5年もかかったのかをデータ科学の立場から説明する予定である。


【第1回セミナー(2022年5月31日(火))
【タイトル】「銀河天文学とビッグデータ」
【講演者】
  但木 謙一(国立天文台)
【概要】
 現在の観測天文学は、望遠鏡・観測装置の大型化に伴って、取得する観測データが膨大な量になってきており、天文学者達を悩ませている。日本が誇る『すばる望遠鏡』には、世界最大級の口径8mの鏡と超広視野カメラ『ハイパー・シュプリームカム』が搭載されており、一度に8.7億画素(870メガピクセル)の高解像度画像を取得することができる。現在、日本の天文学コミュニティはこの世界最強タッグの観測装置を用いた大規模探査プロジェクトを推進しており、8年間で330日分の観測時間を集中投資し、昨年末に全ての観測を終えた。この大量の観測画像には、太陽系のある天の川銀河内の星から130億光年彼方にある銀河まで、5億以上もの天体が写っている。様々な距離(宇宙の時代に対応する)にある大量の銀河の観測データから、銀河が時間と共にどのように進化し、現在の姿へ至ったのか調べる研究は大変エキサイティングである。大量の画像データを扱う解析は、近年目覚ましい発展を遂げている深層学習と相性が良く、これまでの研究でも多クラス分類・超解像化・異常検知などが試され、その有効性が実証されつつあるが、新しい発見にまでは至っていないのが現状である。今回のセミナーでは、すばる望遠鏡で取得するビッグデータがどういうものか、またこれらのデータを使って解決したい銀河天文学における未解決問題について紹介する予定である。